週刊ファミ通 12月26日発売号掲載 小林裕幸×ゲームプロデューサー対談 第3弾
多数のヒット作を手掛け、現在はGPTRACK50の代表取締役社長を務める小林裕幸氏。
そんな小林氏と業界の第一線で活躍するクリエイターが語り合う連載企画の第3弾。
今回のお相手は、アトラスのゲームクリエイター、橋野桂氏。
それぞれのモノづくりに取り組む姿勢や手掛けた最新作、開発中の作品について、さまざまなエピソードを語っていただいた。
【プロフィール】
小林裕幸氏(こばやし ひろゆき)文中は小林
GPTRACK50 代表取締役社長
カプコンにて『バイオハザード』『戦国BASARA』など多数の人気シリーズに携わる。
2022年にはゲームスタジオ“GPTRACK50”を立ち上げ、現在、完全新作を開発中。
橋野 桂氏(はしの かつら)文中は橋野
アトラス プランナー、ディレクター、プロデューサー
『ペルソナ』シリーズをはじめ、多数のタイトルでディレクション/プロデュースを担当。
新作RPG『メタファー:リファンタジオ』ではディレクターを務める。
プロデューサーとディレクター お互いの役職に対する私見を吐露
小林 はじめてお会いしたのは、秋葉原で行われた某ゲームイベントのときだったと思います。『ペルソナ5』が発売されるより前だったから、もう10年くらい経っていますね。そこでご挨拶させてもらって、食事に行って。それからプライベートでのお付き合いは続いていますが、仕事でごいっしょしたことはないですね。
橋野 小林さんは僕にとってすごく特殊な人なんですよ。『戦国BASARA』や『デビル メイ クライ』など、カプコン時代の小林さんの作品にはめちゃくちゃ刺激を受けていて。いろいろおもしろいことをされている、元気な方だなという印象でした。そうして実際にお会いしたら、さまざまな経験を積まれていて、本当にたくさんのことを知っていらっしゃる方だったので、また驚いて。いまもお会いするたびに、いろいろ勉強させてもらっています。
小林 僕も橋野さんは、ディレクターとプロデューサーを兼任して『ペルソナ』シリーズを手掛けられているすごい方だなという印象でした。テレビアニメになったり、舞台になったりと、『ペルソナ』はゲーム以外の展開にも精力的に取り組まれていて。僕も自身の手掛けるタイトルでそうした展開に挑戦していたので、いろいろ情報交換をして、参考にさせていただきました。ちなみに最新作の『メタファー:リファンタジオ』は、ディレクションのみなんでしたっけ?
橋野 途中でバジェットを管理してくれる人が入ったので、表向きはディレクターということになっていますが、じつはプロデューサーも兼任しています。やはりクリエイティブに関しては、最後まで責任をもって管理したいので。小林さんはプロデューサー専任でゲーム開発に取り組まれていますが、そうした作品に対する姿勢はお互いにそこまで変わらないと思うんですけど、いかがですか?
小林 そうですね。基本的な姿勢は変わりませんが、いっしょに組むディレクターに合わせて、“どこまで口を出すか”のラインは調整しています。たとえば、絵が得意なディレクターだったらデザイン方面も一括して任せるけど、あまり得意ではないディレクターであれば、そこを補える人材を探してきてサポートにつけたり。得意なところはどんどん進めてもらって、苦手な部分はフォローする。その線の引きかたは、担当するタイトルごとにけっこう違いますね。
橋野 小林さんはプロデューサー専門で、ディレクターはやらないですよね。?
小林 やらないですね。だって、ディレクターってたいへんでしょう?(笑)。 日々、各分野のクリエイターと喧々諤々しながら、少しずつ開発を進めていくというのは、僕にはしんどいです。いまでもプロデューサーとしてクリエイターの方たちと話はしますが、ディレクターになるとそうした打ち合わせの頻度が増えて、距離感もグッと近くなるので、タフじゃないとやっていけない気がして。それなら週一回の会議で、いろいろきついことを言われるほうがまだマシかなという感覚です。
橋野 僕はプロデューサーのほうがたいへんなイメージがあります。ディレクターの場合、“ゲームのクオリティーを高める”という一点を軸に話せますが、プロデューサーだと会社の事情だったり、急遽、計画に変更が生じた際の調整だったりと、いろいろなことに対処しないといけないじゃないですか。その都度頭を切り換えて、ひとつひとつの問題を片付けていくほうが僕はきついですね。
小林 その点はタイプが違いますね。それともうひとつ、ディレクターをやらないことに理由があって。想像もつかない発想でモノを作り出す、つまり“0から1を生み出す”ことができる人には、僕はどうやっても勝てないんですよ。けれどもロジックや経験をもとにして、“1を10にする”ことならできる自信がある。0から1を生み出せる仲間を見つけて、そのサポートに徹するほうが僕には向いていると思い、プロデュースに専念しています。
橋野さんのシナリオ作成法とは? GPTRACK50新作の情報もちらり
小林 せっかくの機会なので、シナリオの書きかたについてもお聞きしますね。世界観だったり、キャラクターだったり、いろいろあると思いますが、シナリオを作成する際は毎回、何を優先されていますか?
橋野 導入部分とエンディングですね。物語が始まるとき、そこには数名のキャラクターがいるじゃないですか。そのキャラクターたちがどう動くか、まずは行動する理由や目的を設定します。それがおおよそ固まったら、つぎはエンディングを考えます。そうして始まりと終わりの形が見えたら、あとはそれらをつなげていくイメージです。
小林 順を追ってではなく、最初と最後を固めてからストーリーを考えていくというスタイルはちょっと独特な気がします。
橋野 エンディングといってもその時点で台本を作るのではなく、“どういう葛藤があって決着がつくのか”という、ざっくりとした結末を考えるくらいです。でも、最初にそこを決めておけば、あとは道中に起伏を作っていくだけなので。でもアクションゲームの場合は勝手が違いますよね? 以前、ほかの方から「思いついたさまざまなアクションを“いかにおもしろそうに見せるか”というところから考えて、それに当てはまるようにシナリオを作っていく」とお聞きしたことがあるのですが……。
小林 概ね、その通りです。「この作品ではこういう遊びをやりたい」というところからスタートして、キャラクター、世界観、ストーリーを作っていく……という順番ですね。
橋野 それだと極端な話、ゲームがある程度完成してから、後付けでシナリオを用意することも可能なのでは?
小林 まあできますね。ただ、キャラクターデザインを固める時点でシナリオや世界観もいっしょに考えることが多いので、そういうケースは稀です。あと、僕自身が早めにシナリオを確定させたいタイプなので、現在開発中の新作ではわりと早い段階でシナリオを固めました。やっぱりシナリオがあるといろいろ進むのが早いし、足りないものも見えてくるのがいいですね。
橋野 全貌がまったくわからないんですけど、開発中のタイトルは物語性のあるゲームということで合っていますか?
小林 ちゃんとしたストーリーのあるアクションRPGになります。当初はインタビューなどで「ジャンルはアクションゲームです」と話していましたが、作中には成長要素があるので、アクションRPGに変更しました。というのも、テクニックがないとクリアーできないゲームにはしたくなくて。アクションが苦手な人でも、しっかり成長させればクリアーできる。そのためにRPG的な要素を入れて、戦略を練る楽しさも盛り込んで……としているうちに現状の形に落ち着いた次第です。細かい話になりますが、“アクションRPG”というより、“RPG要素も楽しめるアクションゲーム”だと思っていただいたほうがしっくりくるかもしれません。
橋野 GPTRACK50の処女作であり、スタジオの看板タイトルになる作品ということですよね。
小林 かなり尖った作品を目指しているので、いまは冷や冷やしながら進行を見守っています。ただ、あまりに尖りすぎてもよくないので、そのあたりのさじ加減にも気を配っています。橋野さんも『メタファー』の開発時、それまで『ペルソナ』シリーズではできなかったさまざまなことに挑戦されたと思うのですが、とくに印象に残っている取り組みはありますか? たとえば、ファンタジーの世界観に挑戦して新たな発見があった……とか。
橋野 『メタファー』をファンタジー世界の物語にしたのは、じつはスタッフからの要望が強くあったからなんです。個人としては“現状のJRPGをつぎの段階に進めるためには、どういう取り組みをするべきか”が重要で、テーマありきで考えているわけではないんです。ただ今回は、スタッフからの要望があり、新しいチャレンジをするにあたってもファンタジー世界が適していると思ったので、この形で作り込むことにしたんです。なので、何が何でもファンタジーを作りたかった……というわけではないです。今後、別のゲームを作る際に「舞台設定は戦国時代がベスト」と思ったら、『戦国BASARA』のような世界観のJRPGになることもあるかもしれません(笑)。
『メタファー』アニメ演出にこめたアトラス開発陣のこだわりを深掘り
小林 『メタファー』に関して、もう一点聞かせてください。『ペルソナ』シリーズに続き、本作もアニメーションによる演出が印象的な仕上がりになっていますが、橋野さんにとってアニメーションは、毎回盛り込むべき“必須の要素”という認識ですか?
橋野 もちろんチーム内でも、企画がスタートした初期には「アニメーションを使わない演出のほうがいいんじゃないか」という声があり、すべての演出をCGによるカットシーンで構成する案もありました。ですが、必要な場面だけを描いて、割って、それらをつないで見せるアニメーションの演出のしかたと、3Dモデルにモーションをつけて、全尺を見せるCGによる演出だと、表現のしかたがぜんぜん違うんです。どちらのほうが優れているという話ではなく、僕らが作るJRPGにおいては、リアルタイムでシークエンスをつないでいくより、部分部分をつなげて構成するスタイルのほうが適していたので、アニメーションによる演出を取り入れたというわけです。
小林 会話シーンでは、手前にキャラクターのバストアップのカットを出しつつ、背景でCGのキャラクターたちの挙動も見られるようになっていますが、プロデューサー目線で見ると手間が2倍になり、たいへんな作業量になるなと感じました。どちらかひとつでも成立すると思いますが、これもやはりキャラクターへの理解度を深め、より強く感情移入してもらうために必要だと判断して盛り込まれたということですか?
橋野 そうなります。初登場のキャラクターを印象付けたり、感情が動く瞬間を表現したりするうえで、効果的な仕様だと判断しました。事実、好意的なご意見も多数いただいているので、やってよかったですね。それと最後に一点、僕からも小林さんの新作について質問させてください。気の早い話になりますが、やはりリリースするからにはシリーズ化など、その後の展開も当然狙っていたり……しますよね?
小林 ちゃんと売れて、うまくいけば続編も作りたいとは思っています。とはいえ、先のことを考えすぎるのもよくないので、いまは1作目をしっかり作り上げることに注力しています。そのうえで開発チームには「続編のために余白は作っておいて」とも伝えています。あらゆる設定を細かく決めすぎると、そこから派生させるのが難しくなるんですよ。なので「決めてもいいけど、作中に反映させる要素は最低限に留めておいて」と念押ししつつ、開発を進めている状況です。でも、それをいうなら橋野さんも『メタファー』のシリーズ化を考えていらっしゃるんじゃないですか?
橋野 いろいろ考えはありますが、なにぶん、まだ発売から5週間(対談時点)しか経っていないので、具体的なプランは何も……。でも、そうなるといいなという思いはあります。そもそもが『真・女神転生』、『ペルソナ』に続く、第3のJRPGシリーズを生み出そうというところからスタートした企画なので、弊社を代表する看板タイトルになるよう、育てていきたいですね。いまはひとまず様子見です。
ファミ通.com(https://www.famitsu.com/article/202412/27693)ではインタビューの完全版を掲載!