News小林裕幸×グラスホッパー・マニファクチュア須田剛一氏


2024/08/08

ゲーム

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週刊ファミ通 8月8日発売号掲載 小林裕幸×ゲームプロデューサー対談 第2弾

多数のヒット作を手掛け、現在はGPTRACK50の
代表取締役社長を務める小林裕幸氏。
そんな小林氏と業界の第一線で活躍する
プロデューサーが語り合う連載企画の第2弾。
今回のお相手は、グラスホッパー・マニファクチュアの

CEO、須田剛一氏。お互いにNetEase Gamesグループであり、
それぞれ新作を開発中のおふたりに、さまざまな
エピソードを語っていただいた。

【プロフィール】
小林裕幸(こばやし ひろゆき)写真左 文中は小林
GPTRACK50 代表取締役社長(ジーピー・トラック・フィフティ)
カプコンにて『バイオハザード』、『戦国BASARA』など
多数の人気シリーズに携わる。
2022年にはゲームスタジオ“GPTRACK50”を立ち上げ、
現在、完全新作を開発中。

須田剛一氏(すだ ごういち)写真右 文中は須田
グラスホッパー・マニファクチュア CEO
CEOであり、ディレクター/シナリオライターとしても
多数の作品を手掛ける。代表作は『killer7』、
『ノーモア★ヒーローズ』、『ロリポップチェーンソー』など。

後のクリエイティブにも影響する『killer7』開発当時の裏話を直撃

小林 ふたりでこうやって、オフィシャルの場で話すのは始めてですよね?

須田 そうですよね。20年くらい前に『killer7』をいっしょに作らせていただいきましたが、
取材はそれぞれで対応しましたので、今回が初だと思います。初めてお会いしたとき、まわりには関西弁の方しかいなかったので、標準語で話される小林さんが合流されたときはホッとしたといいますか。ちょっと安心したことを覚えています。

小林 僕の中では須田さんは、社長のときとディレクターのときの切り換えといいますか、そのギャップが強烈でしたね。社長モードのときは物腰柔らかで、気遣いの姿勢がしっかりとあるんですけど、クリエイティブモードに入ると、まさにディレクターといいますか。はっきりと意見を言われて、こだわる部分は絶対に曲げないという。その切り換えができるところがすごいなと思いました。

須田 『killer7』のときのことは鮮明に覚えています。開発時はいろいろとトラブルも多くて。小林さんには、そうした問題が山積みになっていたときに途中から入ってもらったんですけど、ひとつひとつの問題を迅速に解決していただいて。本当にあのときは助かりました。とにかく発売まで、しっかりとロードマップを引いてくれて、着地するところまで面倒を見ていただきました。

小林 それから20年近くが経過して、こうして同じグループでゲームを作っていることが、なんだか不思議ですよね。ちなみに僕は、須田さんがいらっしゃったからNetEase Gamesへの参加を決めたんですよ。

須田 本当ですか?

小林 須田さんが参加されているなら間違いないだろうということで、GPTRACK50を立ち上げたんです。それで今回は、お互いの仕事であったり、仕事をごいっしょする中で感じた印象などについて話せれば……と思うんですけど、僕の場合は、さっきちょっと話しましたが、やっぱり社長としての須田さんが、ものすごく印象に残っていて。当時の僕は気遣いといいますか、お客さんに対しての丁寧な対応が苦手だったので、「社長とはこうあるべき」という姿勢を須田さんから学ばせていただきました。

須田 社長業を褒められることは珍しいです。

小林 クリエイティブの面では、『killer7』でしかごいっしょしたことはないですが、それでもあの経験がなかったら、『戦国BASARA』であそこまではっちゃけた取り組みはできなかったと思うんです。

須田 『戦国BASARA』は、小林さんのやりたいことの集大成みたいなところがありましたよね。

小林 それまで、「ゲームとはこうあるべき」みたいな固定観念があったんですけど、『killer7』でごいっしょさせていただいたことで、アニメを入れたり、歌を入れたり、クリエイティブな発想って、もっと自由にやっていいんだ……と考えられるようになって。これは自分の中では、めちゃくちゃ大きな変化だったんです。いろいろな手法を取り入れつつ、ゲーム作りに取り組めるようになったのは、まさに『killer7』といいますか、須田さんのおかげなので、同作への参加は僕にとってすごいキーポイントだったように思います。なので、ものすごく感謝しているんですけど……ただ、現場は本当にたいへんでした(笑)。須田さんには、予定通りに作業を進めてもらうためにすごい圧をかけてしまったので、窮屈な思いをさせてしまったと思うのですが……。

須田 いえいえ。あれくらい締めてもらわないと開発が終わらない状況だったので、感謝しています。社長としては「納期に間に合わせないといけない」と思いながらも、ディレクターとしては「納得いくまでこだわりたい」という思いが強くあって。そうした中、小林さんに喝を入れてもらって、全体を引き締め直していただきました。あれがあったからこそ、無事に発売へと漕ぎつくことができたんだと思っています。もし小林さんがいなかったら、いまでも開発が続いている可能性もぜんぜんあるので(笑)。

小林 いや、さすがにそれはないでしょう(笑)。

キャラクターやストーリーを創造する際のこだわりとは?

──おふたりがプロデューサーとしてディレクターとやり取りをする際、気をつけていることとかありますか?

小林 「ディレクターにはやりたいことをやってもらいたい」ということを、つねに心がけています。その“やりたいこと”を、売れる方向に向けるかじ取りがプロデューサーの仕事だと思っていて。タイトルごとに目標とする売り上げは異なりますが、そこに向けて売れなくなるようなことをディレクターが言ってきたら、軌道修正するようにしています。それ以外のところでは、あとはもう本当に好みの話になるので「ディレクターの好みでやったらいいじゃん」という感じです。須田さんはディレクターとして、いろいろなプロデューサーと仕事をされていますが、その際、付き合いかたなどで意識していることはあるんですか?

須田 やっぱりプロデューサーとディレクターの相性や関係性って、ゲームにすごく反映されるんですよ。画面を見れば、どのようなやり取りがあったのかだいたいわかるといいますか。だからこそ両者の関係性をいかによくするかはいいゲームを作るうえでとても重要で、僕としては自由に遊ばせてくれるプロデューサーさんは、やはりありがたいです。そのうえで、最後はしっかりと締めてくれるという。小林さんはまさにそういうスタンスでやらせてくださったので、個人的には「相性がいいな!」と、勝手に思っています(笑)。

小林 そう言っていただけて光栄です! 今回の対談ではキャラクターやストーリーの創造についてもお聞きしたいのですが、須田さんは新しい企画を立ち上げる際、キャラとストーリー、どちらを先に考えられているのでしょう?

須田 キャラクター先行の場合が多いですね。『ノーモア★ヒーローズ』や『ロリポップチェーンソー』は、最初に主人公のイメージがバーンとあって、そこからストーリーを作り上げていきました。逆に『シャドウ オブ ザ ダムド』や現在開発中の最新作は世界観が先ですね。こういう世界観を描きたいので、それに合う主人公を……という形で制作しています。小林さんはいかがですか?

小林 今回の場合は、最初に8枚ぐらいの企画書を作って、それを叩き台にしながら皆で話し合って作り上げていく予定でした。しかし、だいたいがこてんぱんに叩かれて、跡形もなく形が変わってしまいましたけど。ほぼ、ディレクターやゲームデザイナーがやりたいことが凝縮される形になり、そこからようやくスタートした感じです。基本的には現場の判断に任せていて、ゲーム性の部分は自由にやってもらっていいんですけど、主人公の設定だけは、場合によっては口を出すこともあります。

須田 それはどういった理由で?

小林 まず最初に主人公の方向性が固まって、そこから敵が生まれて、ストーリーができあがっていく……という順番で開発に当たることが多いので、最初の部分がブレないようにそこだけは毎回、必ずチェックするようにしています。ちなみに須田さんはキャラクターを創造する際、ゲーム性といいますか、そのタイトルのジャンルなども念頭に置いて考えられるのでしょうか?

須田 僕の場合は、だいたいアクションベースで考えちゃいますね。なんというか、それがもう染みついてしまっているので。ゲームの画面内にそのキャラクターが登場して、こんなアクションをくり出したらおもしろいだろうな……というのが前提としてあって、そこを意識しながらキャラクターを作り出して、そのうえで、キャラクターが映えるシステムを考えるケースが多いですね。逆にアドベンチャーゲームの場合は、世界観や設定から考えることが多いです。それらを先に固めて、シナリオを書いていく中でキャラクターが生み出てくる感じですね。

最新タイトルも鋭意開発中、2025年初頭には発表もアリ!?

──おふたりの開発中の新作タイトルについても、可能な範囲でお聞きしたいです。須田さんの新作の開発は順調なんですか?

須田 じつはもうゴールは見えています。発売までのスケジュールを引いて、タスクの割り振りも完了しているので、ここから発売に向けて、いよいよ全力疾走に入る感じです。

小林 となると、発表も近いうちには……?

須田 明言はできませんが、2025年の早い段階で何らかの発表ができれば、と考えてはいます。NetEase Gamesに参画後、初めての完全新規タイトルとなりますので、ユーザーの皆さんには単なるクローンゲームやコピーゲームではない、すでに世の中にあるゲームとは違う感覚や体験を提供したいと思っています。「おもしろそうなゲームだな」と思って触ってみたら、これまでのゲームとはちょっと違うものが見えてくるような。そういった体験を意識して開発を進めています。GPTRACK50のタイトルはいかがですか?

小林 遅れ気味ですがちゃんと進んではいます。ただ、昨年の設立1周年のときに「2年目にはタイトル発表をしたい」と話したのですが、それは現状ちょっときびしそうです。とはいえ、シナリオはもう上がっているので、ここから翻訳のターンに入る感じですね。そうして翻訳が完了すればコンテを切って……と、これから徐々に忙しくなっていきます。シナリオのラインはそんな進行具合ですが、ゲームの部分に関しては、見た目がけっこう整ってきています。ジャンルはアクションRPGなのですが、アクションパートなどはすでに開発が進んでいて、そろそろブラッシュアップするターンに入ります。PCベースで開発していますが、コンシューマー機での動作実機でのテストもすでに完了していて、その点はちょっと安心しました。

須田 確かにそれは大事ですね。終盤になって「実機で動かない」となるのは非常にまずいので、うちも早めにテストをしています。

──両社ともに新しい環境でゲーム開発を進めていますが、困っていることなどはあるのでしょうか?

小林 NetEase Gamesはコンシューマーゲームに関してはまだ発展途上なので、まだまだ環境が整いきっていない部分もあります。かなり揃ってはきているのですが、要件によってはスムーズに行かない場合もあり、いろいろと模索しながら環境を整えていますね。

須田 僕個人というより、グラスホッパーとしては「NetEase Gamesがどのような出口を用意してくれるのか?」という点が、気になっています。同社がパブリッシャーとして、ブランドを立ち上げて売ってくれることにはなっていますが、せっかく小林さんや名越稔洋さん、市村龍太郎さんといった、ビッグタイトルを売ってきた方たちがグループにいらっしゃるので、そういった皆さんの力もお借りして、世界に向けて作品をリリースしていく展開が実現できたらいいな……という期待はすごくあります。

小林 これからまさに、皆でいっしょに実績を作っていく感じですよね。

須田 まずはNetEase Gamesというブランドを、ファーストパーティーが一丸となって盛り上げていって。もちろん、そうした準備はすでに着々と進んでいるとは思うんですけど、どんな展開になるのか非常に楽しみなところです。

小林 ガチガチに役割分担をしている会社だと、「それはこっちがやるんだ」みたいになってしまいますが、NetEase Gamesではそうした決まりがないので、いろいろといっしょにやっていけるんじゃないかと思います。これからの展開が楽しみですね!

ファミ通.com(https://www.famitsu.com/article/202408/13029)ではインタビューの完全版を掲載!