News小林裕幸×スクウェア・エニックス齊藤陽介氏


2024/05/16

ゲーム

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週刊ファミ通 5月16日発売号掲載 小林裕幸×ゲームプロデューサー対談 第1弾

プロデューサーとして多数のヒット作を手掛け、
現在はGPTRACK50代表取締役社長を務める小林裕幸氏。
そんな小林氏とゲーム業界の第一線で活躍するクリエイターが
“プロデューサー視点によるゲーム開発”について語り合う
連載企画がスタート。第1弾となる今回のお相手は、
スクウェア・エニックスの齊藤陽介氏。
ゲーム開発の楽しさや難しさなどを語っていただいた。

【プロフィール】
小林裕幸(こばやし ひろゆき)写真左 文中は小林
GPTRACK50 代表取締役社長(ジーピー・トラック・フィフティ)
カプコンにて『バイオハザード』など多数の人気シリーズに携わる。
2022年にゲームスタジオ“GPTRACK50”を立ち上げ、現在は完全新作を開発中。


齊藤陽介氏(さいとう ようすけ)写真右 文中は齊藤
スクウェア・エニックス 取締役執行役員
取締役執行役員/エグゼクティブ・プロデューサーとして『ドラゴンクエストX オンライン』や
『NieR』シリーズなど、さまざまな人気タイトルを手掛ける。

お互いの関係性とプロデューススタイル

小林 会合などではごいっしょさせていただいていますが、こうしてお話しするのは初ですよね。

齊藤 小林さんのことは、カプコンさんに所属されていらっしゃったころから、
もちろん存じ上げていました。カプコンさんはどちらかというと、プロデューサーという職種で
前面に出てこられる方はそんなに多くないイメージでしたが、そんな中で小林さんはしっかり
結果を残して、存在感を放たれていたので、やり手のプロデューサーという印象は
当時からありました。逆に弊社はプロデューサーを立てて、社外の会社に開発を依頼するのが
主流だったので、そう考えると私と小林さんでは、プロデュースのスタイルは
けっこう違うのかもしれないですね。

小林 カプコンで初めて携わったのはプレイステーション用ソフトの『バイオハザード』でしたが、
そのころは齊藤さんがおっしゃる通り、ほぼ内作のチームで開発していました。
ただプロデューサーになってからは、いちばんミニマムなところで、僕とディレクター以外は
すべて外部のスタッフという状況での開発を経験したこともあります。
どちらのほうが楽か……というより、双方に特有の大変さがありますよね。
齊藤さんがチームビルドで気をつけていることはありますか?

齊藤 『ドラゴンクエストX オンライン』の開発時に初めて、
社内中心でチームビルディングを行いましたが、これが本当に大変で。
ほかの部署から優秀な人材を引っ張ってくるんですけど、その際の調整には
骨が折れました。

小林 そのときはどうやって人を集められたのですか?

齊藤 当時は『ファイナルファンタジー』や『キングダム ハーツ』といったタイトル別に、
それらを手掛けるエンジニア、アーティスト、ゲームデザイナーたちが集まる
“職種会”という会合がありまして。そこに顔を出して、三顧の礼じゃないですけど、
「これから『ドラゴンクエストX オンライン』を作ります。よかったらそちらの部署から
人を出してもらえませんか?」とお願いしてまわって。そこからのスタートでした。

小林 ひと声かければ、各ポジションからすぐに人を集められるというわけではないんですね。

齊藤 いろいろな部署から人を集めて、外部からも各分野のエキスパートに入ってもらって。
そうしてなんとか、ひとつのチームとして形を整えることができた……という感じです。
ひとりひとりに声掛けしていったので、とにかく時間がかかりました。
GPTRACK50はいま何人くらいいるんですか?

小林 社内のコアメンバーは20人程度に抑えていて、外部のスキルのある会社に
協力していただいて回していく方針をとっています。前職では200人以上いるチームを
指揮したこともありますが、いまの環境でそれを再現することは考えていません。
大所帯になってしまうと、どうしてもひとりひとりの顔が見えなくなってしまいますし、
実際に顔を合わせて仕事をするのは、そのうちの10人くらいになってしまいがちで。
でもそれだと、せっかく同じチームでゲームを作っているのに、何だか寂しいですよね。
そういった経験もあって、新しく会社をスタートするなら、もっと小規模なものにしようと。
チーム全員の顔が見えて、気軽にしゃべったり、意見交換ができる環境を作りたいという思いがあり、
現状の規模感でやらせてもらっています。

プロデューサーの業務内容とスタンスについて

――プロデューサーの業務内容は人によってさまざまだと思います。
おふたりはどういったスタンスで業務に取り組まれているのでしょう?

小林 僕の場合、自分だけで企画を立ち上げて、「みんな俺についてこい!」みたいなことは
しないようにしています。毎回必ず、一緒に動いてくれるディレクターを立てて、
そのディレクターとしっかり話し合いながら枠組みを作り、プロジェクトを走らせるようにして。
自分がやりたいことよりも、ディレクターがやりたいことを前面に出して、そのうえで
動いてもらったほうが、彼らの“作りたい”というリビドーを刺激できて、よりよい方向に
進むと思うんですよね。その向きを最適な方向に調整しながら舵を切るのが僕の役目だという
認識です。なんといっても、プロデューサーにとって最大の命題は“資金の回収”ですので。
やるからには当然、利益が出るようにチームを導いていかなければなりません。
「めちゃくちゃ儲けたい!」とまではいいませんが、現場ではよく、「少なくとも
リクープ(回収)できるものにしようね」ということは言っていますね。
とはいえ、それを優先するあまり、つまらないものを作ってしまっては意味がないので。
あくまでもユーザーの皆さんに楽しいと思ってもらえる作品を作って、そのうえで
どうリクープするか……という順で、考えるようにしています。

──齊藤さんはプロデューサーとディレクターの業務について、
  役割や違いをどう考えられていますか?

齊藤 人によって解釈はぜんぜん違うので、これはあくまでも私個人の考えになりますが、
そのゲームを“作品”として捉えた場合の責任者がディレクターで、“商品”として
捉えた際の責任者がプロデューサーという認識でいます。ここでいう“作品としてのゲーム”とは、
開発陣が一丸となり、よりおもしろくするために心血を注ぐ対象としてのゲームという意味で、
そうしたスタッフ一同の取り組みに対して責任を持つのがディレクターであると思っています。
一方で、小林さんもおっしゃられた通り、ゲームを商材として捉え、販売し、いかにして
利益を最大化するか……という点について考え、責任を負うのが、プロデューサーの役目
というわけです。

小林 クリエイティブの面をディレクターが、セールスの面をプロデューサーが、
それぞれ責任者として管理しているということですよね。

齊藤 その通りです。よく、ディレクターの上にプロデューサーがいると
勘違いされるんですけど、情報伝達の順番がその形になっているだけで、ポジションによる
ヒエラルキーみたいなものはないですよね。ただ、ここでちょっと話がややこしくなるんですけど、
ディレクターだからといってゲームを芸術扱いし、アート活動のような形で開発作業に
当たればいい……というわけではなくて。最終的に商品として世に出すからには、
かける熱量の3割くらいは、売り上げについても考えてもらわないといけません。
逆にプロデューサーも、「儲かりさえすればいい」という考えだけではなく、
責任を負うからには、ちゃんとそのゲームの情報を頭に叩き込んでおく必要があります。
そうしないと、それこそ小林さんのお話にもあった、正しい方向への舵取りができないので。
クリエイティブ面はディレクターに任せながらも、チームの面々が「ここはどうしましょう?」と
相談にきたときには、迷いなく方向を示せるようにしておくことも大切です。

準備中のタイトルの情報も……プロジェクトの進捗を深掘り

──現在、進行中のプロジェクトについて、公表可能な範囲で進捗をお聞きしたいです。

齊藤 正式な発表はしていないんですけど、なんとなく皆さんが気にされていそうなところでは、
ヨコオタロウさん(※1)、岡部啓一さん(※2)と一緒に「何か新しいことをやりたいね」という話は
ずっとしています。そう遠くないうちに、もう少しまとまったことが話せると思いますので、
ご期待いただければ。『NieR』かもしれないし、『NieR』じゃないかもしれない(笑)。
いまのところ、言えるのはこれくらいですかね。

小林 おお、それは楽しみです。

齊藤 それともう1点、私が直接、プロデュースをしているわけではないんですけど、
新しいことに挑戦する姿勢はずっと続けていきたいと思っていて、先ほどのお話とは
また別のチームで動いている企画がひとつあります。せっかくやるからには、
まだ世の中にないものを作り出したいな……という気持ちで、いろいろやっています。
そちらにかかりっきりにはなれないので、ほぼほぼスタッフに任せる形になるんですけど、
なかなかおもしろいものになってきたと思います。こちらも発表できる日がいまから楽しみです。

──小林さんは、どのような状況ですか?

小林 順調にアクションRPGを作っていますが、まだまだGPTRACK50としての開発環境は
発展途上ですね。少人数による開発体制のため、「これを開発するにはどうすればいい?」、
「この業務を任せられる外部の会社はないのか?」みたいなところで手が止まりがちで。
ひとつひとつの問題を解決しながら、本当に少しずつ進んでいる状況です。
このままスムーズに行くかなと思ったら、ちょっとしたことでストップがかかって。
その都度、解決策を見つけ出しては全体で共有して……という作業をひたすらくり返しています。

齋藤 なるほど。プロデュース業に加えて会社の経営も考えるとさらにたいへんですね。

小林 それと先ほど、コアメンバーは少数に抑えたいとお話ししましたが、外部のスタッフを
加えるとプロジェクトそのものは100人を超える規模で展開していくことになりそうです。
さらにNetEase側からも協力してくれるメンバーが増えてきているので、規模感に関しては
当初の考えからそれつつありますが、開発の環境自体は、ゆっくりですが確実に
整いつつはあります。

齊藤 来年くらいには遊べるんですか?

小林 いやいや、何も言えないです(笑)。

プロデューサーに求められている能力とは

──最後に、いまの時代のプロデューサーに求められる能力は何だと思われますか?

齊藤 難しいですけど、私は決断力だと思います。決断を迫られたときにはっきりと
「これで行こう」と言える人がプロデューサーには向いていると思います。

──下した決断が本当に正しかったのか、その時点ではわからなかったとしても?

齊藤 意見を聞かれた際に、「わからない……」と答えを濁すようなプロデューサーだと、
その後もズルズルと「ああでもない、こうでもない」という考えを引きずって、チーム全体を
よくない方向に誘導してしまう可能性があるので。必要なときには腹をくくって、
物事の決断ができる人じゃないと、いまのきびしいゲーム業界ではやっていけないでしょうね。

小林 僕自身は、現場でゲーム開発に取り組むところからキャリアをスタートしました。
プロデューサーになってからも、営業や宣伝の知識が必要になれば、その都度、
各部署の方から教えを請い、とにかく学び続けてプロデュース業に専念してきました。
でもいまは、プロデューサーであってもオールマイティーな人より、特定の能力に特化した人のほうが
求められるようになってきているように感じます。ゲーム業界だけでなく、どの分野でもそれなりに
経験を積んで、ノウハウもあるのに、なぜかプロデュース業では芽が出ないという方は、
改めて自分を見つめ直して「これだけは人に負けない」と思える能力を伸ばしていくことが、
プロデューサーとして大成するうえでの重要な足掛かりになるのではないでしょうか。

(※1)ヨコオタロウ氏……ブッコロ代表取締役。『ドラッグ オン ドラグーン』や
『NieR』シリーズなどのディレクターを務める

(※2)岡部啓一氏……音楽制作を行うクリエイティブスタジオMONACA代表取締役。
『NieR』シリーズ コンポーザー

ファミ通.com(https://www.famitsu.com/article/202405/4085)ではインタビューの完全版を掲載!