(AUTOMATON掲載記事)
『バイオハザード』『デビルメイクライ』を手がけた小林裕幸氏新作ゲームは「シングルプレイ」「アクションRPG」「アクションゲーム好きが開発」。設立2年が経って開発軌道にのってきたGPTRACK50 に現状を訊く。
株式会社GPTRACK50(ジーピー・トラック・フィフティ)は、NetEase Gamesの100%出資によるゲーム開発スタジオだ。同社は、プロデューサーとしてゲーム業界で活躍を続けてきた小林裕幸氏が代表を務め、スタジオとしての第1作となる開発を進めているという。
弊誌では、小林氏にインタビューを敢行し、GPTRACK50の近況と、未だベールに包まれている開発中の作品について話を伺った。新しいゲームを生み出そうという熱意にあふれる小林氏とスタジオの挑戦過程をお届けする。
前職を卒業し、新しいアクションRPGの開発へ
――小林様の自己紹介をお願いします。
小林裕幸(以下、小林)氏:株式会社GPTRACK50の代表を務める小林裕幸と申します。ゲーム業界歴は、今年 で30年目に入ります。1995年にカプコンにプログラマーとして入社し、たまたま運が良くPS向けにリリースした『バイオハザード』の第1作目に関わることになりました。『バイオハザード』『バイオハザード2』でプログラマーを担当し、その後『ディノクライシス』でプランナー、今で言うゲームデザイナーになりました。その後に『バイオハザード3』も少し手伝いました。
そして、『ディノクライシス2』でプロデューサーとしてデビューしました。2000年9月13日発売で、まさに今年で 24周年になりますね。その後は『デビルメイクライ』シリーズや『バイオハザード』シリーズなどのプロデューサーを務めて。そして、『デビルメイクライ4』で一緒だった伊津野さんと『ドラゴンズドグマ』を立ち上げました。
『ドラゴンズドグマ ダークアリズン』や『ドラゴンズドグマ オンライン』も手がけつつ、2005年にPS2向けの『戦国BASARA』を自分で立ち上げて、15年以上 ゲームだけではなく、いろいろな展開を続けていました。で、27年在籍したカプコンを卒業してNetEase Gamesに参加してGPTRACK50を立ち上げたという経緯になります。
――GPTRACK50では今、何を手がけられているか改めて教えてください。小林さまはメディアミックスがお得意な印象ですが。
小林氏:今GPTRACK50では1作目のゲームとして3DのアクションRPGを開発していて、それが形になってから、いろいろな横展開をしていこうかなと思っています。ただ、まずはゲーム開発に一生懸命集中して取り組んでいて、それでちょうど2年経つというところです。
ちなみにシングルプレイゲームです。NetEase Games傘下なので、モバイル向けやPC向けのオンラインゲームと考える方が、発表当初は多かったですね。なので、そこからインタビューなどで、シングルプレイのアクションRPGを作っているよ、というアピールをずっと続けてきています。
スタートダッシュは良好も、スタッフ集めに苦労
――スタジオを立ち上げられてから2年ということですが、現状スタジオとしてプロジェクトはどのような状況でしょうか。
小林氏:立ち上げからちょうど2年が経って、最初に予定していたこととだいぶ違っているところもありました。うまくいったところと、いってないところがはっきり出た感じです。始めはゲームを立ち上げて、動き出して上手く進んだら、2本目のプロジェクトを走らせて、僕はプロデューサーなので横展開も準備していこうと考えていました。
――どのようなところに苦労したのでしょうか。
小林氏:1作目のオリジナルIPのゲームを作るための試行錯誤もそうですが、スタッフを集めるのに当初の想定よりも時間がかかったので、まずはきちんと1本目に集中しているという状況です(笑)実はUnreal Engineを扱うのが、僕自身を含め、ほかのスタッフも大半の人間が初めてだったんです。意外とすぐに出力ができて、開発を始めて数か月で、モックで遊べるゲームがスタートしていました。
昔も新ハードや新エンジンを扱うことになった開発で苦労したことはいっぱいありましたが、Unreal Engineで新規IPが意外とすんなり形になったというのは、スタートとして良かったなと思います。やっぱり紙の資料やイメージ映像よりも、実機で実際に動いている方が、ゲーム開発の相談がしやすくて、スタートダッシュは早かったです。
――スタートダッシュはうまく切れたと。
小林氏:ええ。ただ最初の1年は、スタッフが少なかった影響で、そこからグラフィック周りが思ったより進みませんでした。スタジオを設立して開発を開始して1年が経って、そろそろ発表ができるレベルに形ができあがるかな、と思っていましたが、やっぱり上手くいくところと遅れてしまうところがそれぞれ混在していて、結果2年でまだ発表に至っていないという状態です。ただ、人材集めに苦労した分、相性が良かったり実力があったり、良い人材が集まってくれています。
今でもスタッフが完全には揃っていない状態ではありますが、求めるところの8割から9割は揃ってきたといった感じです。立ち上げのときは10人くらいのコアメンバーでやろうと思っていましたが、蓋を開けてみると現時点で20人以上と、倍くらいの人数になりましたね。良いメンバーが集まったことは自負していて、そのおかげで手応えのある3Dアクションゲームがだんだんできている状態です。
――小林さまはどのような役割を担っているのでしょうか。
小林氏:全体的な監修です。たとえばアートなら週に一度のアート定例で、3Dに起こす以前の2Dデザインから見せてもらってチェックをしています。あとは、3Dに起こすまでの予定やモーションキャプチャーのスケジュールなど、段取りの把握ですね。スタジオの代表でありエグゼクティブプロデューサーなので、全体の進捗管理をするようなかたちですね。やっぱり作品をプロデュースする上で、何を先にやってほしいという優先順位がありますので、進捗の把握はしたいところです。
前職では、新規IP立ち上げ時は細かく見ることがありましたが、シリーズ化して後期にもなると、意図的により大きな部分を見るようにしていました。なので、今回のGPTRACK50で今開発しているのが新規IPで、1本のゲームを開発する現場にどっぷりと入り込んでいるという現状は、僕からすると結構懐かしいですね。過去は同時に5本とか、多ければ移植作品なども含めて同時に10本も走りつつ、メディアミックスも動きつつということもあったので、そのときと比べると遥かに集中できて、昼食もゆっくり食べられる良い環境です(笑)
売り方を考えつつ、現場の流れも握るプロデューサー職
――小林さまはプロデューサーとしての実績が印象的です。ご自身をどんなプロデューサーだとお考えですか。
小林氏:ディレクターの経験はないので、ディレクター寄りのプロデューサーではないと思っています。キャリアでディレクターを飛び越えてすぐにプロデューサーになってしまいましたので。それには良し悪しはありますが、やはりゲーム開発で任せるべきところは、開発スタッフと毎日やり取りしているディレクターに任せようと思っています。
ただ、大きいゲームの方向性といった部分は、ディレクターやセクションのリーダーと共有したいので、そういう会議には当然開発の一員として入っていましたね。やっぱり現場がやりたいことを、良い環境、良いスケジュール、良いスタッフでやってもらいたいと考えているので、結構準備側に回ることが多いですね。
――サポーターであったり、アシスタントであったり。
小林氏:サポーターかもしれません。今は、会社の代表でかつ総務人事部長なんですよ。だから採用や人事面も担当するし、オフィスの運営といった総務的なことも両方やっています。半分開発に関わって、半分事務的なことをするというのが現状ですね。
それとプロモーションには積極的に関わりたいと思っています。前職でプロデューサーになったときも、当初からマーケティング活動には積極的に関わってきました。GPTRACK50でも、プロモーションやパブリッシングは、自分としてはやっていきたいプロデュース業務のひとつなので、ディレクターやほかのプロデューサーと二人三脚で、力を入れてやっていきたいところです。
――もともとはプログラマーとしてキャリアをスタートさせましたよね。
小林氏:ええ。元々僕はプログラマーで、全体を見て進捗管理することの大切さは身にしみてわかっているので、社内で進捗管理が一番上手いのは自分だと思っていますよ(笑)だからといって、細かいところまではできないので、実際はプロジェクトマネージャーやプロデューサーに任せていますが。プロモーションも好きです。いろいろやりつつ、足りないところに入っていくイメージかもしれません。
新作はアクションゲームなのか、それともアクションRPGか
――小林さまはGPTRACK50で現在制作中のゲームを、「アクションゲーム」と言ったり「アクションRPG」と言ったりされています。どちらなのでしょうか。
小林氏:そこは良いご指摘で、最初に作り始めたときは、アクション要素が強めで作っていたのでアクションゲームと呼んでいました。そうしていると現場から「小林さん、このゲーム成長要素とかRPG要素もあるんですけど」と言われまして(笑)
そこでアクションゲームと明言して、すごいテクニックがいる難しそうなゲーム、それこそ死にゲーなのかと思われてしまうと本末転倒だと考えました。そこでアクション要素がそこそこあって、知恵とキャラクターを成長させて攻略していくRPG要素もある、アクションRPGと呼ぶべきだと思い軌道修正しました。だから、開発を始めてから1年経ってからは、アクションRPGと呼んでいます。ただ呼び方が変わったとはいえ、別にゲームの内容が変わったというわけではありません。作っているうちに、みなさんにゲームの内容を伝えるべき言葉として、アクションRPGを選んだということですね。
――アクションRPGの方が、システムにいろいろな要素を含んでいる印象があります。
小林氏:現在開発しているゲームは、新しいアクションゲームを作りたい、というところが第一にありました。そこにいろいろな要素を加えた中に成長要素があったわけです。僕が好きなアクションゲームに『スーパーマリオ』シリーズがありますが、あの作品はアクションゲームですが、プレイヤーキャラクターが成長する要素はないじゃないですか。
そこで今作っているゲームを比較すると、単純にアクションゲームと呼ぶのは少し違うなと。だったらアクションRPGと呼んだ方がいいなぁ、と。
――アクションゲームでは『スーパーマリオ』シリーズがお好きとのことですが、小林さまが考える面白いアクションゲームとは、どういった要素を揃えていて、どういったプレイフィールが味わえる作品でしょうか。
小林氏:あくまで個人的な好みで、チームの好みとは違うかもしれないということを前提にお話しします。僕が『スーパーマリオ』シリーズが好きな理由は、頭と腕の両方が求められるところですね。たとえば横スクロールのシリーズだったらひとつのステージをどう進んでいくのか、マリオのパワーアップの状態で遊び方が変わる。そのような攻略の選択肢がある上に、アクションゲームとしてのテクニックもそこそこ必要という。
初代『デビルメイクライ』の開発中のエピソードとして、プレイに求められるテクニックのハードルが高くなったときに、難しくてできない人がいっぱいいたんですよ。そうなると、開発側で求めるアクションができないと、その作品の魅力が半分くらいしか味わってもらえなくなってしまいます。それはまずいということで、『デビルメイクライ』にはボタンを押し続けると自動的に技を出してくれるイージーオートマティック を実装しました。プロデューサー的には、幅広いユーザーにプレイしてもらいたいので。
面白いアクションゲームの話に戻ると、僕が好きなのはジャンルで言えばアクションRPGですね。アクションだけだと、僕自身そこまでゲームが上手いわけではないので、死にゲーと呼ばれるレベルまで難しくなるととてもじゃないけど進められなくて、だんだんつまらなくなってしまうんですよね。ただ、テクニックがまったく必要ないというゲームもあまり好みではないので、個人的にはバランスが良いアクションRPGが好きですね。
――テクニカルとタクティカルのバランスが良いゲームが好きということですね。
小林氏:そうですね。あとはやっぱりプレイしたときの手触りは大事にしたいですね。コントローラーを握ってボタンを押したとき、画面の中のプレイヤーキャラクターが思ったように動くアクションの気持ち良さ、その一体感は欲しいと思っています。その点に関しては今開発しているゲームでも表現できていていますね。
正直なところ、集めた開発メンバーと外部の協力会社さんに助けていただくプロジェクトで、どこまで手触り良くできるかは心配だったんですけど、意外と……と言うとチームに失礼かもしれませんが、上手く作れているので、その点の不安は全く無いです。
――スタイリッシュなゲームではない?
小林氏:格好良いんですけどスタイリッシュではないですね。『ドラゴンズドグマ』でもないです。今までの作品とは違うところを目指しています。「小林さん作品らしくない」とも言われます(笑)20年ちょっと 付き合いのあるデザイナーさんに今回の仕事を頼んだときも予想外と言われたので、新しさが出たと感じてもらえているようで嬉しかったですね。
――なるほど。最近のアクションゲームのトレンドは、カジュアルか死にゲーかという二極化がだいぶ進んでいる印象です。そのどちらでもないということですが、どういった風に個性を表現しようとしていますか。
小林氏:スタンダードなアクションもありながら、新しい要素をきっちり入れていこうというのが、今進めているプロジェクトで大切にしているポイントです。世の中にあるものだけだと個性が弱いというか、物足りない。
開発メンバーはみんなアクションゲームが好きで、新しいゲームが作りたいと旗を振って開発を進めています。だからといって、誰もまったくやったことがない未知のアクションゲームを作ろうとするとハードルが高くて、難しすぎて誰もできないものになると思います。それはちょっと違うかなと思うので、新しいといってもある程度はスタンダードなアクションゲームに、新要素を加えるという手法をとっています。
――最近のゲームのトレンドやマーケットは意識されているのでしょうか。
小林氏:話題の作品は気にしています。最近はアクションRPGではシングルプレイのゲームが少なくなってきているなと思っていたところに、『黒神話:悟空』が登場しましたね。GPTRACK50も親会社のNetEase Gamesが中国の企業なので、中国で開発された『黒神話:悟空』の動向を気にしていましたが、こんなに人気が出るとは思いませんでした。やっぱり、頑張っている作品はすごく応援したくなりますね。
――『黒神話:悟空』は、何かに似ている部分はありつつ、独自の色があるゲームでした。
小林氏:自分たちのゲームも、シングルプレイの新しいアクションゲームを目指しているので、参考になります。
前職の話からスタジオ設立から現在の苦労、そして開発中の第1作がどんなゲームなのかが少なからず見えてきたことだろう。後編では、小林氏とGPTRACK50で開発中のゲームでリードエンジニアを務める重吉信哉氏を交えて、スタジオの雰囲気やどんな働き方をしているのか、そしてゲーム開発についてより深く伺った模様をお届けする。