News小林裕幸×バンダイナムコスタジオ原田勝弘氏


2025/03/19

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週刊ファミ通 3月19日発売号掲載 小林裕幸×ゲームプロデューサー対談 第4弾

多数のヒット作を手掛け、現在はGPTRACK50の代表取締役社長を務める小林裕幸氏。そんな小林氏と業界の第一線で活躍するクリエイターが語り合う連載企画の第4弾。今回のお相手は、バンダイナムコスタジオのプロデューサー/ディレクター、原田勝弘氏。それぞれのモノづくりに取り組む姿勢や、プロデューサーに求められる資質について語っていただいた。

【プロフィール】
小林 裕幸氏(こばやし ひろゆき)文中は小林
GPTRACK50 代表取締役社長
カプコンにて『バイオハザード』『戦国BASARA』など多数の人気シリーズに携わる。
2022年にはゲームスタジオ“GPTRACK50”を立ち上げ、現在、完全新作を開発中。

原田 勝弘氏(はらだ かつひろ)文中は原田
バンダイナムコスタジオ プロデューサー/ディレクター
『鉄拳』シリーズのエグゼクティブゲームディレクター/チーフプロデューサーを務める。
ほかにも『サマーレッスン』や『ソウルキャリバー』シリーズなども担当。

開発中の新作から舞台の裏話まで小林Pの情報は筒抜けだった!?

小林 原田さんとはイベントやショーでお会いしてご挨拶させていただいたことはありますが、飲みに行ったりとかはないですよね。

原田 ショーの舞台裏の控え室とかでよくお会いしますよね。それ以外だと、イベントの後のプラットフォーマー主催のパーティーとか。東京ゲームショウでも「関係者で集まって飲もう」ということになって。そのときもいらっしゃいましたよね。そう考えると、ふたりだけでじっくり話したりといったことはないです。

小林 原田さんといえば対戦格闘ゲームの第一人者で、ユーザーさんともフレンドリーに
交流されているイメージがあります。

原田 フレンドリーだったり、ときには戦争したり(笑)。

小林 eスポーツの大会や海外のイベントにも積極的に関わられていますよね。“The Game Awards 2024(以下、TGA2024)”は僕も現地にいたので、原田さんが登壇されたステージを間近で見させていただきました。

原田 僕の中では、小林さんといえばやはり『戦国BASARA』のイメージが強いですね。じつは小林さんって、同じ業界のクリエイターや開発者どうしの会話のなかで、けっこう名前が上がる方なんですよ。だからなぜかそんなに接点はないのに、小林さんの動向は以前からなんとなく把握していました。

小林 そうなんですか!? なんか嫌だな(笑)。

原田 数年前の話ですけど、いま何を作っていて、つぎは何をするのか……といった情報がどんどん入ってきて。「舞台のプロデュース? ゲーム開発だけでなく舞台まで手掛ける人がいるの?」みたいな感じでしたね。そうしたお話を聞くたびに、おもしろい方向に向かっている人だなと思っていて。勝手に「ついに演劇とか舞台を手掛けるプロデューサーになるんだ」と認識していました(笑)。

小林 あのころは喜んでやっていましたね。

原田 どんどん活動の幅を広げていく一方で、ゲーム開発のほうはどうだったんですか?

小林 じつは僕、ディレクターはやったことがないんですよ。

原田 え、そうなんですか?

小林 プログラマーとして業界に入って、『バイオハザード』の1作目に関わり、そこからプランナーとして『ディノクライシス』などに携わるうちに、三上真司さんから「お前、プロデューサーになれ」と言われて。そこから、いろいろ手掛けるようになった……という流れです。

原田 やっぱり経歴も変わってますね。だからこそ活動の幅もマルチなんですかね。

小林 けっきょくのところ、ゲーム開発の中心にいるのはディレクターじゃないですか。プロデューサーは売り上げなどを考えて、よりよい方向に舵を切るよう指示はできますが、「これはこうしたらいい」というゲーム内の調整はディレクターの判断が絶対なので。そこにまで口を出すと面倒くさいプロデューサーになってしまうので、そこは一線を引いて、控えるようにしているんです。そのぶん、開発期間中に自分ができることは何だろうと考えています。とにかくゲームが売れるよう、知名度を上げるための宣伝に力を割いていたら、いつの間にか舞台もプロデュースすることになっていました。

原田 ブランディングはプロデューサーの大事な仕事ですからね。

小林 とくに『戦国BASARA』では、それが顕著でしたね。舞台だけでなく、マンガやアニメ、小説など、いろいろやりました。

世界中の『鉄拳』ファンと交流し、“ユーザーニーズ”をとことん追求

小林 原田さんの肩書きは、『鉄拳』シリーズのプロデューサーでいいんでしたっけ?

原田 タイトルごとに微妙に違っていて、エグゼクティブプロデューサーだったり、エグゼクティブディレクターだったり、なんかそんな感じです(笑)。

小林 『鉄拳』シリーズは、原田さん以外にもディレクターがいらっしゃいますよね?

原田 います。僕は“ナカツ”と呼んでいるんですけど、池田幸平がディレクターと開発プロデューサーを担当しています。そのほかにもパブリッシャー側にもプロデューサーがいて、そのメンツであれこれ話しながら開発・運営に当たっていますね。

小林 開発とパブリッシャーの両方の調整を原田さんがされていると?

原田 そうですね。どっちにも口を出すから、面倒くさい奴だと思われているかも……。

小林 僕も前職でエグゼクティブプロデューサーをしていたときは、開発とマーケティングにそれぞれ別のプロデューサーがいました。双方から話を聞いて回していく……ということをやっていましたが、そうやってうまくバランス取ってまとめる役は重要ですよ。開発が無理を通せばマーケティングのスタッフは困ってしまうし、マーケティング側が無理難題をいえば、開発スタッフは煮詰まってしまう。そのバランサーは絶対に必要だと思います。

原田 あと、その際に忘れてはいけないのが、うまくいったところはちゃんと現場の人の手柄にしてあげること。で、まずかった部分は僕が責任を負う、というか世間から責められるのは僕であるということですね。

小林 いい上司じゃないですか! ちなみに、いまは立場上、すべての要素をくまなくチェックするのは難しいと思いますが、それでも“ここだけは必ず自分で確認するようにしている”というところはありますか?

原田 『鉄拳』シリーズのファンの方たちのリアルな声といいますか、ご意見を聞き取る作業ですね。SNSやインターネット上の掲示板を確認するだけでなく、世界中のeスポーツ大会やイベントにも足を運びます。そこで直接ファンの方たちが『鉄拳』をプレイされているのを見て、生の声を聞くことはずっと続けています。これを年中やっていると、国や地域ごとにさまざまなご意見をいただけるんです。それらを精査していくうちに“そのなかに共通する、すべての『鉄拳』ファンに当てはまるユーザーニーズ”が見えてきます。そのニーズに応えられているか? 求められているものからズレた展開になっていないか? そこだけは徹底的に調べて、ファンの皆さんに楽しんでいただける形に軌道修正することを心掛けています。それでも、ズレることもありますけれど。

小林 その作業を、いまだにご自身で担当されているのがすごいです。

原田 そのぶん、ほかのところはナカツだったり、スタッフの感性だったりを信じて任せています。『鉄拳8』に関しては、企画の段階で「ファンの皆さんは何を求めているのか?」ということだけ、チームの全員にインプットして。アウトプットは彼らに任せるというスタンスでした。

小林 そうして完成した『鉄拳8』が現在、世界中で大ヒットしているわけですが、原田さんとしても、自身の下で学んだ皆さんの成長を実感できたのはうれしかったんじゃないですか?

原田 結果的に、メタスコアは90点台だったり、“TGA2024”では“Best Fighting Game”を受賞したりと、高い評価をいただけたのはありがたいですね。もう『鉄拳』は僕がいなくても大丈夫……かもしれないですね。まあ大丈夫になったはず!

小林 いやいやいや(笑)。

需要の先読み、ターゲットの選定プロデューサーに必須の能力とは?

――プロデューサーの業務・役割について。昔といまで大きく変わったところはありますか?

小林 昔は「これ、おもしろいな」という思いつきからゲーム開発をスタートしていました。ある程度、開発経験のあるメンバーで作れば、なんとなくヒットしていたんですけど、いまは“ただおもしろいだけ”では売れません。事前にしっかりとマーケティングを行い、どういった層に受けるか分析して。ターゲットを明確にしておかないと受け入れてもらえない時代になりました。現在開発中のタイトルは海外のゲーム市場がターゲットなので、いまのうちに言っておきますが、たぶん日本ではあんまり売れないと思います。

原田 割り切ってやっているんですね。

小林 最初にそこをはっきりしておかないと、途中で「やっぱり日本でも受ける作品にしよう」みたいな意見が出てくるんですよ。それを取り入れてしまうと、作品そのものがどんどん間違った方向にいってしまうので、「この層に遊んでもらうゲームにするんだ」という指針は明確に定めています。

原田 小林さんのおっしゃる通り、昔といまでは、企画が形になるまでの経緯はぜんぜん違います。僕らが若いころ、それこそ『鉄拳』の90年代の開発時なんて、「こういう格ゲーを作りたいんだ」という作り手側の熱意だけで先導して、それに大勢の方がついてきてくださいました。いまはお客さんにもほかのゲームやエンターテインメントの選択肢がたくさんあるので、そのなかから選んでいただくには、そうとうターゲットを絞り込む必要がありますね。

小林 そうした分析やターゲットの絞り込みが、プロデューサーに求められますよね。

原田 それらに加えて、ゲームを発売した後、その方たち(ターゲットとなる層)がどんなふうに遊ばれて、盛り上がりがどのように広がっていくか……というところまで、我々は企画の段階から考える必要があります。「こうあってほしい」という理想を照らし合わせて、「きっとこういうニーズが生じるはずだ」というところまで考え、そのニーズに応えられる要素を、最初から仕様としてゲーム内に落とし込むことも、プロデューサーには必要な能力だと思います。

小林 発売後にユーザーの要望を聞いてからの対応だと、開発が間に合わないですからね。

原田 本当に満足してもらえるコンテンツを作り出すとなると、開発には1~2年ほどかかるので。発売してからの対応だと、そのゲームをいちばん盛り上げたいタイミングでの展開ができないんですよ。例を挙げるなら、『鉄拳8』の“TEKKEN FIGHT LOUNGE”がそれに当たります。「本作が発売されれば、ゲーム内でもプレイヤーどうしが交流できる場所が求められるはず」、「とはいえ、これほどのコンテンツとなると後付けでは作れない」、「だったら、本編と同時進行で開発を進めるしかない」ということで、最初から『鉄拳8』の目玉コンテンツとして、“TEKKEN FIGHT LOUNGE”を実装することになったというわけです。

小林 それともうひとつ、気をつけないといけないのがレーティングですね。原田さんはご自身でもディレクターを務められていましたが、うちは別の人間が担当しています。ディレクターには基本的に、やりたいことは自由にやらせてあげたいとは思っているんですけど、“プロデューサー視点で見てそれだけはダメ”という部分に関しては口を出すようにしていて。それが「ターゲットに対して刺さらないこと」と、「CEROレーティングがZになるような表現」になります。

原田 うちは何十年もやってきているから、スタッフ間でも阿吽の呼吸というか、言わなくても通じるところがありますが、新規のスタジオとなると意思の疎通を図るところから始めないといけないわけですね。

小林 途中で考えかたにズレが生じないように、そこは徹底しています。たとえば画づくりに関しては、キャラクターの見た目や世界観を固めるときに、レーティングについてもしっかり打ち合わせをしています。デザインチェックのたびに「売るのがたいへんになるから、絶対にCERO Zにはしないで」と伝えてきました。

原田 小林さんの作品といえば、個性の際立つキャラクターが多数登場するイメージですけど、新作ではどうなるんですか?

小林 アートディレクターは今回初めて組む方なので、これまで手掛けてきたタイトルとは大きく雰囲気が異なります。キャラクターの見た目も過去の作品からは想像しづらいデザインになっているので、発表時にはきっと驚いてもらえると思います。そうした点も楽しみにしつつ、お待ちいただけますと幸いです。

原田 で、発売はいつですか?

小林 言えるわけないじゃないですか(笑)。

ファミ通.com (https://www.famitsu.com/article/202503/36820)ではインタビューの完全版を掲載!